
株式会社プラゴ
CTO 岡田 侑弥
慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科 バイオインフォマティクスに関する理学学士。
2014年度経済産業省IPA未踏事業にて未踏クリエータとして採択。プログラミング言語学、プログラミング教育学に関するプロジェクトに従事し、2015年同事業において未踏スーパークリエータに認定。
以降、株式会社メルカリをはじめ複数のWeb系メガベンチャーにてソフトウェア開発、プロダクトマネジメントに従事する。
2021年 プラゴにリードソフトウェアエンジニアとして参画し、2022年1月 VPoEに就任。同年8月より現職。
EV(電気自動車)の普及が進む中、都市のインフラには新しい形が求められています。そんな中「体験設計×テクノロジー」でEV充電という社会課題に向き合うのが、スタートアップの株式会社プラゴ。ハードとソフトが密接に絡み合う領域で、横断型のエンジニア組織をつくり上げてきた同社では、どんな価値観が共有され、どんな工夫が現場で積み重ねられているのか。CTOの岡田さんに、チームづくりのリアルを伺いました。
EV充電インフラを担うスタートアップの横断型開発チーム
まず、プラゴ社の概要と、開発組織の構成について教えてください。
プラゴは「続けたくなる未来をつくる」というパーパスを掲げ、EV充電ステーションを展開するスタートアップです。業界的にはCPO(チャージポイントオペレーター)と呼ばれる事業形態で、ハードウェアの提供にとどまらず、ソフトウェアや体験設計を中核に据えた事業展開を強みとしています。
開発組織は、正社員のエンジニアが15〜20名程度、デザインチームを含めた全体では約20名。業務委託メンバーを含めると約30名規模です。直近では資金調達を機に組織を倍以上に拡大し、それに伴って開発・運用体制の見直しが必要となりました。

急成長フェーズで見えた、組織設計の限界と可能性
組織が急拡大した際、どのような課題がありましたか?
正直かなり大変でした。人数が一気に倍以上に増えたことで、それまでのスキームでは全然回らなくなったんですよ。細かい進捗が見えなくなる、誰が何をしているのか把握しきれない、結果的にプロジェクトが予定通り進まない。これはちょっと構造的にまずいなと。
そこから1年くらいかけて、組織の仕組み自体を見直しました。まずはPM機能をちゃんとチームとして切り出して、さらにPOを束ねるグループも明確にしました。そして、全体でスクラムを標準化し、2週間ごとのスプリントで進捗を確認しています。朝会やレトロスペクティブも全チームで実施し、情報共有と改善のリズムをつくりました。すると、徐々に安定して回るようになりましたね。
組織設計で意識されたポイントは?
“モジュール化・疎結合”っていう考え方をすごく意識してます。要するに、組織を細かい単位に分けて、それぞれが自律して動けるようにするってことですね。チーム間はゆるやかにつながっているけど、あまり依存しすぎない。システム設計とすごく似てると思います。
たとえば「このモジュールがうまくいってない」ってなったときに、他のモジュールに波及しない。逆に、連携が必要なときは最低限のインターフェースで話ができる。そういう構造にすることで、スピードも柔軟性も保てるんですよね。
研究も実装も、地続きで進める柔軟なチーム文化
R&Dを起点にプロダクトを開発できる文化とは、どのような姿ですか?
プラゴでは、R&Dって言っても“研究して終わり”じゃないんです。たとえば、新しい充電制御のプロトコルや通信まわりで課題を感じたら、ちょっと触ってみる。「これ、いけそうだね」となったら、すぐにプロトタイプにして検証してみる。そうした取り組みが、日々の製品改善につながっています。
誰かが「これ調べてみた」って言うと、「じゃあ試してみようか」ってすぐに動き出せる。みんな忙しいはずなんですけど、技術的な好奇心に対してすごく素直というか。役割とか部署に関係なく「やってみよう」っていう空気感があるんです。
プロダクトの信頼性を支える、もう一つの柱
新しい技術に挑戦しながら、どのように品質や安定性を保っているのでしょうか?
プラゴでは「QAエンジニア」ではなく、あえて「品質管理チーム」として、専任のチームを設けています。スタートアップとしてはちょっと珍しいかもしれませんが、それだけ品質を大事にしています。テストだけでなく、仕様段階から設計意図を一緒に考えるところまで関わってもらっていて、後工程での修正を最小限に抑えられるようにしています。
実際、こうした体制や文化が成果にもつながっていて、プラゴの可用率は現在99.5%。EV充電インフラというシビアな環境下において、かなり高水準を維持できているのは、この品質管理の仕組みがしっかり機能しているからだと思っています。
ただし、品質の担保を“チームに丸投げ”にはしません。あくまでも品質は開発チーム全体で守るもの。専任チームが仕組みを支え、現場が日々の中でそれを実践していく——その役割分担がうまく機能していると感じています。「これちょっと違和感あるかも?」と誰でも気軽に声を上げられる文化が、プラゴの強さだと思います。

「当たり前」を地道にやりきる開発プロセス
プロダクトの品質を維持・向上させるために、特に意識している開発プロセスや技術的なプラクティスはありますか?
基本に忠実に、ちゃんとやるべきことをやる。これに尽きますね。たとえば、コードレビューは必須だし、レビューするなら「なぜそれが気になったのか」まできちんとコメントするようにしてます。テストコードも当然書くし、CI/CDの整備も継続的に手を入れてます。
あと、トラブルがあったときの振り返りはかなり重視していて。「何が起きたか」「どう防げたか」「次にどうするか」をちゃんと言語化して、チーム全体で共有する。それを積み重ねていくことが、結果的に一番効くと思ってます。
挑戦が続くチームへ。“やってみたい”を支える仕組み
エンジニアのモチベーションをどう維持されていますか?
「自分でやってみたい」と思えることがあるかどうか、そこが一番大きいと思うんですよね。誰かが「これ面白そうじゃない?」って言ったら、「やってみようよ」ってすぐに返せる空気がある。それを大事にしています。
もちろん業務のバランスはあるけど、ちょっと余白をつくって「これ調べてみたんだけど」みたいな動きができると、最終的にはプロダクトの深みにつながるんです。好奇心に対して、自然に反応できるチームってやっぱり強いと思います。
「どう言うか」が文化をつくる。心理的安全性の話
心理的安全性を高めるために心がけていることはありますか?
何を言うかよりもどう言うかが大事で、たとえば「ここミスってます」って直接言うんじゃなくて、「こうするともっと良くなるかもね」って言い方に変える。それだけで、受け取り方が大きく変わると思います。
あと、雑談とか冗談を言える空気もすごく大事です。毎回、真面目な話ばかりじゃなくて、「最近どう?」みたいな軽い会話があることで、「実はちょっと困ってて…」って話も出てくる。だから、心理的安全性って制度じゃなくて、日々の積み重ねなんですよね。

「変われる組織」を目指して
これまでの組織づくりを振り返って、今後はどのようなエンジニア組織を目指しますか?
立ち上げ期はとにかく手を動かして、プロダクトを形にすることに集中してきました。でも今は、土台が整ってきたので、「次にどう進化していくか」が問われているフェーズだと思っています。
変化するのが当たり前の現代において求められるのは、「変われる組織」だと思うんです。だから、今後は“変わる力”を育てていきたい。一人ひとりが「こうした方がいいよね」って自然に言える、そういうチームが理想ですね。それが積み重なっていくことで、組織全体がさらに強くなっていくんじゃないかなと思っています。

編集後記
インタビューを通して際立っていたのは、組織づくりに対する岡田さんの明確な視点と実践の積み重ねでした。品質管理チームを専任で設けるなど、スタートアップとしては珍しい取り組みを行いながらも、それを特別視せず、ごく自然に運用している点がとても印象的でした。
仕組みだけに頼らず、一人ひとりが課題を見つけ、改善に向き合う文化。そうした地道な積み重ねが、結果として99.5%という高い可用率や、変化に強いチームづくりにつながっているのだと思いました。
「変わる力」を育む組織。その静かな強さを、プラゴ社のチームは体現しているように感じました。