「信頼され、任され、挑戦が巡る」──急成長スタートアップのアスエネが描く組織のリアル

アスエネ株式会社
執行役員 VPoE
石坂 達也

大学院を卒業後、楽天に入社し、Webエンジニアとして出前宅配サービスの担当や広告の入稿システムの開発・運用を担当。その後リクルートに転職し、「Airプロダクト」のリードエンジニアとしてサーバーサイドの開発・運用に従事。飲食店向け業務支援プロダクトの新規立ち上げを経て、飲食領域および美容領域のプロダクトの開発統括として開発組織のマネジメントに従事。アスエネでは開発統括/VP of Engineering(VPoE)として、プロダクトの開発・運用と開発組織の運営を行っている。

脱炭素・ESG経営を支援するクライメートテック(※1)企業として急成長を続けるアスエネ社。
CO₂排出量の算定・見える化やサプライチェーンマネジメントを通じて、国内外の企業の脱炭素・ESG経営を後押ししています。

グローバル展開に呼応するように、同社のエンジニア組織も急速に拡大。2022年には業務委託中心だった体制から、約70名規模の多国籍かつ自律的なチーム体制へとシフトしてきました。その成長をリードしてきたのが、VPoEの石坂さん。今回は「組織づくり」にフォーカスし、チーム構成の工夫からカルチャー形成、マネジメントの哲学まで、急成長フェーズの裏側を詳しく伺いました。

(※1)クライメートテック:クライメートテック(気候テック)とは世界的な気候変動の問題を解決するため、CO2排出量の削減や地球温暖化の影響への対策を講じる革新的なテクノロジーのことを指します。(出展:ASUENE MEDIA)

目次

エンジニア組織の急拡大とストリームアラインド型という工夫

まずは、アスエネ社の事業概要について教えてください。

アスエネは「次世代によりよい世界を。」をミッションに、脱炭素・ESG経営をワンストップで支援するクライメートテック企業です。

CO₂排出量を自動取り込み&リアルタイム分析するクラウド「アスエネ」は、従来の手動集計作業を80%以上削減しつつ、詳細レポートやシナリオ検討を直感的に行えます。現在、米国・シンガポール・タイ・欧州・フィリピンに拠点を展開し、グローバルでの事業拡大を加速しています。直近1年の動きとして、AI活用エネルギーマネジメント技術を強みとする米国のNZeroやノーコードでAPI連携を実現できるAnyFlowにグループジョインいただきエネルギーマネジメントとデータ自動連携を強化してきました。

また、その他にもサプライチェーンマネジメントクラウドサービス「ASUENE SUPPLY CHAIN」や、GX・ESG人材特化型転職プラットフォーム「ASUENE CAREER」、SBIホールディングスとの合同会社でカーボンクレジット・排出権取引所「Carbon EX」も展開しています。このように、アスエネでは複数のサービスを通じて、企業のサステナビリティ経営をワンストップで支援できる仕組みを構築しています。

開発体制の変遷を教えてください。

2022年2月に私がジョインした当時は、業務委託のエンジニアが数名という体制だったので、私自身も手を動かしながら、開発を進めていく日々でした。

営業チームの奮闘もあり、次々と受注が決まり、ニーズの大きさや緊急性を理解しました。その中で「地球も市場も待ってくれない」という強い危機感がありました。気候変動の解決は一刻を争うテーマであり、プロダクトを素早く届けることが社会的にも経済的にも急務だと感じたんです。

そのため、CPOの渡瀬と組織拡大を急務として捉えて、“攻め”に振り切りました。業務委託の方々の協力も得つつ、正社員の採用もダイレクトリクルーティングやリファラルを活用して進めていきました。現在ではフィリピン・セブ拠点を含め、100名規模の体制にまで成長しています。

拡大する中で、どのように開発体制を整えていったのですか?

人数が増えてくると様々な課題が出てきます。最も大きな課題だったのはコミュニケーションパスの増加でした。それまで私たちはプロジェクトごとにチーム編成が変わるような運営でしたが、「フルーツチーム」という、ストリームアラインド型(※2)の小規模ユニットを導入しました。各チームは5名程度で、バックエンド、フロントエンド、開発リーダーなどのロールが集まった構成で、プロジェクトは個人ではなくチームが持つようにしました。

チーム名を「フルーツ」にしたのは、序列や上下を感じさせない、フラットで親しみやすい名前にしたかったからです。実際には「メロン」「マンゴー」「オレンジ」といった名前がついています。「メロンは高級だし序列が実はあるのでは?」なんて冗談やツッコミもありつつ、今ではちょっとした文化のアクセントにもなっています。

(※2)ストリームアイランド型(ストリームアイランドチーム):特定の事業領域やプロダクトに沿って組織された、エンドツーエンドで価値提供を担うチームのこと。書籍『チームトポロジー』(マシュー・スケルトン、マヌエル・パイス著)で提唱されている。

プロジェクトはどのように動いているのでしょうか?

基本的にはプロダクトごとに1チームの構成になっており、ASUENEのみ1プロダクトに複数チームが存在する構成になっています。各チームがプロダクトのバックログに対応していく形です。役割は基本的にフラットで、誰かが細かく指示を出すというよりは、役割ごとにプロジェクトゴールに向けて自律的に動いています。

リーダーは他チームとの連携や技術面の方針決めなども担いながら、現場に近い立ち位置で機能しています。リーダーやPdMの頑張りが、組織のスピード感や柔軟性を支えていると感じますね。

複数チームがある中で、各チーム間の情報共有はどうされていますか?

1年前くらいまではエンジニア全員での定例会を実施していましたが、人数の増加とともに運用が難しくなりました。現在は、バックエンド・フロントエンドなど技術領域ごとの「テックトーク」、プロダクトごとで行う「プロダクト会」など、スコープを絞った定例会を複数開催しています。

規模が大きくなるほど、隣の人やチームが何をしているのか見えづらくなるので、“情報の見える化”の場を仕組みとして設けることで、関心のあるプロジェクトに自然と関わりやすい状態を作っています。

組織が拡大していく中で、どのような課題がありましたか?

人数が急激に増えた結果、仕組みが追いつかず混乱が生まれた時期もありました。当時は週次の振り返りで課題を洗い出していましたが、規模が大きくなると規定時間内にすべての課題を拾いきれず、本質的な課題解決に動けていないことも増えていました。

そこで導入したのが、少人数の有志による「ワーキンググループ制度」です。特定の課題に集中して取り組み、決まった施策は全体合議を経ずに「トライ」できる仕組みとしました。

この制度を週次の振り返りと接続することで、改善サイクルのスピードが一気に上がりました。設計書のテンプレートや開発フローなど、各種の仕組み化もワーキンググループ発信で進んでいます。

ワーキンググループで、特に注力しているテーマはありますか?

生成AIを活用した開発手法を探る「AI駆動開発ワーキンググループ」が今は最も活発です。日々様々な検証を行いながら、プロダクトやチームを横断して知見を共有しています。アスエネでは今年、最先端AI技術の研究開発組織「ASUENE AI LAB」を立ち上げました。生成AIや機械学習、コンピュータビジョン、自然言語処理など、AIの力で革新を加速させ、脱炭素・ESG領域を中心としたサステナビリティにおける課題解決に取り組んでいます。

重要なのは「AIを導入すること」が目的ではなく、「AIと共に開発することでユーザへ価値をより素早く届けること」を目指している点です。確実に、組織全体の技術基盤が進化しています。

“ポリシー”が支える自律的な行動

制度やルールづくりにおいて大切にしていることはありますか?

私たちは、必要最低限の制度(たとえば勤怠ルールなど)は整えていますが、行動に関する「ルール」はあえて設けていません。ルールは迷いを減らす一方で、自発性や判断力を奪う可能性があると考えているからです。

その代わり、私たちは日々の行動指針として「ルール」ではなく「ポリシー」を掲げています。ルールのように「こうしてはいけない」と禁止事項を列挙するのではなく、「こうするといいですよ」という推奨のスタンスで示すのがポリシーです。

たとえば「許可を求めるな、宣言せよ」というポリシーがあります。もともとは「許可を求めるな、謝罪せよ」という言葉がベースにありますが、エンジニアがPdMなどに「これでいいですか?」と確認してしまいがちな場面をよく見てきました。だからこそ、自分の意志で「こうやりますね」と宣言して動けるようになってほしいという想いを込めて、少しアレンジして掲げています。

このポリシーを浸透させたことで、判断のスピードが上がり、プロダクトへの反映もスムーズになりました。「こうしなければならない」と縛るのではなく、「こうすればうまくいく」というヒントを共有することで、自律的に動ける文化が根づいてきていると感じます。

この文化はすぐに浸透したのでしょうか?

実は、私が入社した当初はまだチームも小さく、カルチャーが形成される前の段階でした。だからこそ、課題が起きる前にあえて「提案しやすさ」や「称賛の文化」を先に作っておこうと思ったんです。

その一例が「サイレントヒーローを作らない」という方針で、陰の貢献者を必ず讃えています。週次の振り返りで、コードレビューの素早さや実装相談といった、見えにくい貢献にも光を当てることで、感謝の連鎖が自然と生まれるようになっています。

結果として、メンバーは自信を持って「宣言する」ことができ、互いに支え合いながらスピード感を持って成果を出せる強い組織になっていると感じています。

VPoEとして「人と向き合う」ことの楽しさ

VPoEとして、日々の業務で特にやりがいを感じるのはどんなときですか?

やはり「人と向き合えること」が一番のやりがいですね。コードは書いた通りに動きますが、人はそうはいかない。だからこそ、メンバーと向き合い信頼関係を築いていくプロセスがおもしろいと感じています。

また、みんなのエンジニアのキャリアの中で、アスエネでの経験が“輝かしい一行”として残るような時間になれば嬉しいです。その人にとって価値ある挑戦や学びが得られるよう、意識的に機会をつくるようにしています。

どのような考え方を軸に、エンジニア組織をつくっているのでしょうか?

私は「信頼による自律」と「個のパワーを最大化」の掛け合わせによって、チームとしての成果が最大化されると考えています。「優秀な個をただ集めるのではなく、それぞれの強みを存分に発揮できる環境をつくり、相乗効果を生む仕組みを整えること」それが、グローバルでも戦える組織の鍵になります。

実際に、メンバーの「やってみたい」という声には、アイデアをどう伝えれば通るかというところから、一緒に考えて伴走します。承認のハードルを下げるサポートをすることで、失敗を恐れずチャレンジできるようにすることと、ミスからは「どこに学びがあったか」という観点で対話することを大切にしています。

意思決定の速さも、自律も、失わない。スケールとともに進化する組織へ

これからの組織づくりにおける展望を教えてください。

今後は、GitLab社が実践している「DRI(Directly Responsible Individual)」の概念を少しずつ取り入れていきたいと思っています。これは各プロジェクトに明確な責任者を置き、その人が意思決定を行うという仕組みです。合意形成に時間をかけすぎず、スピーディな実行を可能にします。

また、非同期コミュニケーションを可能にするドキュメント文化も強化していく予定です。生成AIの台頭により、テキスト化された知識の価値が飛躍的に高まっています。これまで人と人の間で暗黙的に伝わっていた知見を、言語化・構造化することで、AIと人が並列に処理しやすい状態を目指しています。

今後、300名、500名と組織が拡大しても、DRIによる高速な意思決定と、AIによる知識活用によって、現在のスピード感を維持し続けられる組織をつくっていきたいです。世界中の優秀なエンジニアが自律的に価値を生み出し、その知見が組織の資産として蓄積され続ける。そんな未来のエンジニア組織をこれからも描いていきます。

 

編集後記
アスエネ社の開発組織は、チーム体制や制度の工夫にとどまらず「信頼による自律」や「個の力を引き出すこと」を大切にする明確な考え方に基づいてつくられていました。

たとえば、各チームが自律的に動けるように設計された“フルーツチーム”、現場主導で仕組み化を進めるワーキンググループ、判断のスピードを高めるポリシー文化など、すべてが「メンバーの可能性を信じて任せる」ことを前提にした仕組みです。

さらに、AI活用や非同期ドキュメントによる知識の共有、DRI導入による意思決定の明確化など、組織の未来を見据えたチャレンジも着実に進められていました。

「エンジニアのキャリアの中で、アスエネでの経験が“輝かしい一行”になるように」。石坂さんのこの言葉に、VPoEとしてのまっすぐな思いや、組織づくりへの向き合い方がにじんでいるように感じます。挑戦と信頼が自然にめぐるこのエンジニア組織が、今後どのように進化していくのか、ますます注目したくなりました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次