「自ら動く」文化を根づかせる。NTTデータグループ企業が挑む、変化に強いエンジニア組織づくり

株式会社NTTデータ フィナンシャルテクノロジー
決済イノベーション事業部 第四担当 部長
菱沼 徹哉

キャリア採用入社。決済イノベーション事業部のデジタル部門の責任者を担う傍ら、研修や勉強会などのエンジニア育成施策の企画、運営にも携わる。

システムの「安定性」が絶対の金融業界において、変化を恐れず、スピード感を持って価値を届ける。NTTデータグループの中で決済領域を担うNTTデータ フィナンシャルテクノロジー(以下、NFT社)の決済イノベーション事業部では、アジャイル開発の導入や、現場主導の学び合いの仕組みづくりを通じて、“ベンチャーマインド”を文化として根づかせようとしています。

本記事では、そんな変化を支える土台を整え、メンバー一人ひとりの成長を後押しする決済イノベーション事業部の菱沼さんに、組織づくりの裏側とその想いを伺いました。

目次

金融インフラを担うNTTデータグループの中で、NFT社が果たす役割とは

まず、NFT社の概要と、菱沼さんが所属する決済イノベーション事業部について教えてください

NTTデータフィナンシャルテクノロジー、通称NFT社は、NTTデータグループの中でも金融系システム開発を専門とする会社です。中でも決済イノベーション事業部は、キャッシュレス決済のネットワーク構築や加盟店向けのソリューション開発を担っています。

私たちの部署には、現在約250名が在籍しており、新卒社員が7〜8割を占めます。近年は、中途採用にも力を入れており、即戦力クラスの専門的な知見を持つ方を迎えることで、組織全体の技術基盤や開発スピードの底上げを図っています。扱っているプロジェクトは社会的責任が大きく、信頼性が求められるため、一人ひとりが高い意識を持って業務に取り組んでいます。

「安定」だけでは生き残れない──キャッシュレス領域の変化が求めるスピード感

決済イノベーション事業部では決済領域を中心に開発されていますが、決済領域にはどのような大変さがありますか?

私たちの扱う決済領域は、金融業界の中でも特に変化が激しい分野です。新しい決済手段やサービスが次々と登場し、スピード感を持って対応しなければ市場での競争に勝てません。従来のように、仕様を固めて1年、もしくはそれ以上かけて作るスタイルでは、とてもじゃないけど追いつけません。だからこそ、ウォーターフォール型からアジャイル型への移行が急務になりました。

もちろん、金融インフラという性質上、一定の安定性や品質は絶対に担保しなければいけないので、安定性と挑戦という一見相反する要素のバランスをとる必要があります。その中で培われたのが、“自ら動く力”すなわちベンチャーマインドでした。

ベンチャーマインドを作っていく中で、大手グループ企業という環境ゆえに苦労することはありましたか?

いざアジャイルを導入しようとしても、これまでが開発・ビジネスプロセスともにウォーターフォールを軸にしていましたし、NTTデータグループならではの大規模開発へ導入しようという試みだったため、そう簡単には進まず苦労しました。

アジャイルの導入は“前例のない挑戦”から始まった

アジャイルの導入はスムーズに進んだのでしょうか?

いえ、全然でした。当初は、「ウォーターフォールでやった方が早いし楽だよね」という空気があり、なかなか上手くいきませんでした。だからこそ、まずは少人数のチームで実験的に始め、小さな成功体験を積み重ねることからスタートしました。

正直言うと、「これ、やる意味あるのかな」と思ったこともありました。アジャイルに取り組んでいても、最初の頃は現場で実感が湧かないんですよね。「結局、作るものは一緒じゃん」と言われることもあって。うまく行くかどうか分からない中でも、手を止めずに試し続ける必要がありました。

でも、少しずつでも変化が起きてくると、チームの雰囲気も変わってくるんです。「あのとき大変だったけど、今はやって良かったと思える」っていう声が出てきて。そこから徐々に定着していきました。

「上下関係」ではなく「役割と責任」で動くチームに

ベンチャーマインドを文化として根づかせるうえで、どのような工夫をしていますか?

大企業では、上下関係や年次の序列が強く意識される場面が多いと思います。でもスクラムでは、それぞれの役割が全てです。プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発メンバー。それぞれが対等に責任を持って取り組むことで、チームが自律的に動けるようになります。

私はマネージャーという立場ですが、私の意見が常に正しいとは思っていません。メンバーが「こうした方がいい」と提案したら、まずはそれを聞く。時にはそれが採用され、実際にチームで実行することもあります。そうした成功体験が「自分もやっていいんだ」という自信につながり、次の提案につながっていくんじゃないかなって。

あとは、こちらから一方的に指示するのではなく、「どう思う?」「あなたならどうする?」と問いかけるスタイルを心がけています。メンバーが自分の言葉で考え、自分なりの答えを出せるようになることを重視しています。

「好きだから続けられる」──学びが自然に生まれる土壌を整える

エンジニアのモチベーション維持や技術的好奇心を支える工夫はありますか?

現場では、どうしても期限や要件が優先されます。でもその中でも、「この技術を試してみたい」「もっと深く知りたい」という気持ちが、やっぱりエンジニアの原動力だと思うんです。

そこで最近新たに「Innovation Hub」というチームを立ち上げました。このチームでは各メンバーが技術を軸にした活動を行っています。テーマは何でもよくて、好きな技術に没頭したり、自分たちで勉強会を開いたり、誰かの技術ブログを読んで盛り上がったり。現場メンバーからの提案で、こういった“自発的な学び”が自然に生まれる場ができました。

この活動は、業務上の必要に迫られて始めた活動ではありません。むしろ、技術が純粋に楽しいからやっている。そうした活動の中から、自然とアイデアが生まれたり、新しい技術の導入につながったりして、結果的にチームやプロジェクトにも良い影響を与えています。そういう“楽しさから始まる好循環”が、少しずつ根づいてきた実感があります。

“好き”を起点に、自分で考えて動く──それがプロダクトを変えていく力になる

エンジニアが成長を感じられるようにするために、心がけていることは何ですか?

成長実感を得るには、自分で考えて行動する経験が必要だと思っています。

正直、指示してもらう方が楽だと思うんです。ただ自分で考えて決断したことであれば、例え失敗しても「自分で決めたことだから」と納得して次へと活かせますし、成功した場合は、より達成感ややりがいを感じて、自信に繋がると思います。

もちろん、最初からすべてを任せるわけではありません。最初は「この状況だったら、どう考える?」と問いかけながら一緒に進めます。そうやって、本人が自分で考えた行動が、たとえ小さくても結果に繋がっていく。それが成功体験になって成長していくと思うんですよね。

あと、私たちの組織ではバリューの1つとして「Innovate the society.」を掲げています。これは、ただ言われたことをやるのではなく、現場から変革を起こしていく姿勢を表しています。ここでいう「society」は国や世界と言った大きな社会だけではなく、チームやプロジェクトといった小さな社会も含んでいます。世界を変えるのは難しくても、自分の行動を変えることで、チームやプロジェクトに良い影響を与えることはできますよね。その積み重ねこそが、いずれ組織全体、さらには世の中全体の変化につながると思っています。

これまでの組織運営を振り返って、そして今後、どのようなエンジニア組織を目指していきたいとお考えですか?

これまで、既存の延長線上にない新しいノウハウを取り入れ、進化する組織をつくりたいという想いで取り組んできました。それは今も変わっていませんが、最近では特に「新しいノウハウをどう価値提供に活かすか」という視点を重視しています。学ぶだけでは意味がなく、実際の開発やサービスに落とし込んで初めて価値になる。そこに組織としての真価が問われていると感じます。

そうした進化を促す仕掛けとして、どんな取り組みが有効だと感じていますか?

一つは、Innovation Hubのような横断的な取り組みです。異なるスキルや背景を持つ人が交わり、お互いの知見を持ち寄る。そうした場が、組織全体に変化をもたらすきっかけになると考えています。

組織を支えるリーダー層の育成については、どのように感じていますか?

今、リーダー層の育成や採用は大きな課題だと感じています。若手が多い部署ということもあり、経験のあるリーダーがまだ十分に育っていないのが現状です。加えて、技術志向が強く、管理職を目指さないエンジニアも少なくありません。

ただ、プロダクトオーナーやチームリーダーといった役割を経験する中で、徐々にマネジメントに関心を持ち始めるメンバーも出てきています。そうした流れが少しずつでも広がってくれたらと思っています。

とはいえ、このままだと現場が疲弊してしまう可能性もあります。だからこそ、マネージャーやリーダーといった役割が「ただの管理者」ではなく、「エンジニアを支える大事な仕事」であることを、もっと丁寧に伝えていく必要があると考えています。エンジニアが開発に集中できるようにするためにも、そうした土台を支える存在を増やしていかないといけません。

最後に、これからの組織づくりにおいて大切にしていきたいことは何でしょうか?

生成AI活用などどんどん技術が進化する中で、組織もまた柔軟に変わり続ける必要があります。ただ、どんなに新しい取り組みを導入しても、それを動かすのは人です。文化は制度やツールではなく、日々の業務や会話の中から形づくられていくものだと思います。
これからも、変化に向き合い続けながら、みんなが自然に「自分から動ける」組織を育てていきたいです。

 

編集後記
「変化に強い組織をつくるには、何が必要か」。金融インフラという堅牢な土台を守りながらも、ベンチャーマインドを根づかせる──。その相反するように見える挑戦を、愚直に、そして着実に進めてきたNFT社・菱沼さんの言葉には、説得力と温かみがありました。

印象的だったのは、「制度ではなく、日々の業務や会話の中から文化は生まれる」という言葉。どれだけ立派な仕組みを整えても、それを動かすのは人であり、その人の「やってみたい」「こうしてみよう」という気持ちの積み重ねこそが、組織を変えていく力になるのだと感じました。

指示を待つのではなく、自ら考え、動く。好きだから、楽しいからこそ続けられる。そんな自然体の働き方が、これからの技術組織の理想形なのかもしれません

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